契約と不法行為責任

 大気汚染、日照妨害、騒音などの公害問題、犬や猫にかまれる動物事故、手術ミスや誤診による医療事故、週刊誌や新聞による名誉毀損・プライバシー侵害、自動車事故やプラットホーム事故などの交通事故など、現代社会では、さまざまな事故が増えています。
 あるいはまた、商店で買った食品、化粧品、電気製品に欠陥があったため、消費者が思わぬ被害を受けることがあります。
 それらの事故によって損害を受けた被害者は、加害者に対して損害賠償(原則として金銭)を請求することができます。では、被害者が加害者に対して損害賠償を請求するためには、法的にみていかなる要件が必要でしょうか。
 また、損害賠償はどのようにして算定したらよいのでしょうか。

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 一般に加害者と被害者との間に何らかの契約関係がある場合(たとえば、AがB商店で買ったたまご豆腐を食べたところ、サルモネラ菌によって死亡した事故においては、AB間に売買契約があります。また、AがB医院に入院したところ、医師のミスによってAが死亡した事故においては、AB間には医療の契約があります。さらに、航空機墜落事故や列車脱線事故によって乗客がけがをしたり死亡した場合(旅客運送契約がある)には、その損害賠償の要件および効果は、契約法、債務不履行の法理によって処理されます。これに対して、当事者間にそのような契約関係がない場合(たとえば、Aの運転する自動車が歩行者Bをはねとばした場合。これ忙対して、Aの自動車に同乗したBが、Aの運転ミスによってケガをした場合においては、AB間には無償で運送する契約があるものと観念され得る。契約関係がない場合としてはこのほか、AがBをなぐって負傷させた場合、Aが飼っている犬が隣人Bをかみ殺した場合などがある)には、その損害賠償の要件および効果は、不法行為法の法理によって処理されます。債務不履行による損害賠償と不法行為による損害賠償との間には、要件、消滅時効などいくつかの点でちがいがあります。
 しかし、実際には、当事者間に契約関係がある場合でも不法行為法を根拠にして請求を行なうことが多い。
 不法行為法における損害賠償の最も基本的な規定は民法七〇九条です。そこでは「故意または過失によって他人の権利を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責に任ず」と規定されています。それによって明らかなように、損害を受けた被害者が加害者に対して損害賠償を請求するためには、つぎのようないくつかの要件が充たされなければなりません。
 (1) 加害者に故意または過失のあること。要するに、過失なければ責任なし、ということです。これを過失責任の原則と呼びます。近代法の基本原則のひとつです。被害者は、加害者に過失があったことを証明しなければならないのです。過失があったかどうかは、加害者に要求される注意義務を十分に尽くしたかどうかによって判断されます。
 (2) 加害行為と被害発生との間に因果関係があること。因果関係というのは、その行為が原因となってその被害が発生したという原因結果のつながりのことをいいます。損害賠償の要件としての因果関係は、科学における因果関係のように厳密につきとめることは必要でなく、そのほうがもっともらしい、より蓋然性が高い、という程度であっても認められます。近年では、疫学的因果関係(集団的に観察して、統計的に原因結果の関係が認められる場合に、疫学的因果関係ありとする)を法の分野にもとり入れることがある。イタイイタイ病判決をはじめとする四大公害事件が、その先駆的判決です。
 (3) 損害が発生したこと。不法行為は既に発生した損害を填補することが主目的であり、将来発生するかも知れない損害については、原則として損害賠償は認められません。但し、工場騒音や鉄道振動など継続的な被害であって、今までと同程度の侵害が将来にわたって継続する可能性があるときには、それが止むまでの間の将来の精神的苦痛に対する慰謝料が認容されることがあります。また、損害は、軽微なものではだめで、ある程度実質的なものでなくてはいけません。騒音や悪臭などに関して、社会生活上受忍すべき限度をこえた侵害があってはじめて損害賠償を請求することができる、としている(受忍限度)のはその意味です。
 さらに、損害は被害者本人に生じたものであることが必要です。自然環境がおかされたこと(環境権)を理由にして損害賠償を請求することはできないのです。
 (4) 違法性があること。民法は「他人の権利の侵害」と規定していますが、今日では所有権や物権などはっきりと権利として認められているものだけでなく、法的に保護するのが相当な利益であっても、それを違法に侵害すれば不法行為が成立します。たとえば、日照を享受する利益、眺望を享受する利益、静穏に生活する利益、そっとしておいてほしい利益(プライバシー)などは権利とはいえません(もっとも、人格権と構成する説もある)が、そういう利益を受忍限度をこえて侵害すれば、不法行為になるのです。
 (5) 責任能力。加害者に責任能力がなければなりません。たとえば、幼児がいたずらに石をなげて窓ガラスを割っても、その幼児本人に対して損害賠償を請求するわけにはいきません。なぜならば、民法は、未成年者が他人に損害を加えた場合において「その行為の責任を弁識するに足るべき知能」をそなえないとき、心神喪失の間に他人に損害を加えたときには、その加害者には責任がない、と規定しているからです。責任を弁識するに足るべき知能は、だいたい一二、三歳頃にはそなわると解されています。
 それより小さい子供のおこした事故については、監督者(親)の責任を問うことになります。それより大きい子供(中学生や高校生)のおこした事故については、子供本人の責任を追及することができますが、逆に親の責任を問うことは原則としてできません。責任能力があるとはいっても、未成年者の子供には賠償資力のないのがふつうで、これでは被害者に酷というべきでしょう。そこで最近では、そのような不都合を改めるため、親に監督上の過失があったことを積極的に立証すれば、民法七〇九条の責任を問うことができる、とする下級審判例がふえてきています。

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