税務職員による違法調査の責任を追及するには

私の留守に税務署職員が所得の調査だということで臨店し、住宅の中にまで入りこみ、帳簿書類はもちろんのこと、取引先との信書まで持ち帰りました。その後、また調査の名目で臨店しましたので、私は前回の違法なやり方に抗議し、持ち帰った帳簿書類の返還と謝罪を要求しましたところが、税務署は取引銀行や取引先等について反面調査を行なったうえ、推計により更正決定をしてきたのです。どうしたらよいのでしょうか。

 税務調査の行き過ぎに謝罪を求め、調査を拒否した例があります。
 Aさんは小売商を営んでいましたが、昭和三八年分と三九年分の所得について、税務署の調査を受けました。昭和三八年分については、既に一年前に調査をうけていましたのでその理由をきいたのですが、税務署員は何の返事もしません。また、昭和三九年分の調査については、事前に通知を受けていなかったので、帳簿書類を用意することができなかったので、次回にしてくれと調査の延期を申し入れ、税務署員もこれに応じました。そして、二回目の調査の時、Aさんは帳簿を用意して待っていましたが、税務署員が両年分の調査の理由を明らかにしないばかりか、店の壁にピンでとめてあった千葉民主商工会からの総会通知に関する葉書をAさんの承諾もないのに勝手にとりはずしその内容を写したので「いかに税務署員とはいえ、税務の調査にきているにも抱らず私人の信書を勝手に読んで写しとってよいとはいえないはずだ」と、Aさんらがこれに抗議し、押し問答となったため、肝心の調査はできませんでした。
 その後の調査についても、Aさんが、葉書の件の謝罪と、調査の理由を明らかにしない以上応じないとする態度を貫いたところ、税務署は推計による「更生」処分を行なってきました。
 税務職員の反面調査に抗議し、公務執行妨害罪で起訴された例として
 Bさんは、木工職人ですが、昭和四二年分所得税の確定申告で税額を零としましたところ、税務署の調査がはじまりました。Bさんは、適正な調査が行なわれるようにと考え、第三者に立ち会ってもらって、税務署員に調査の理由を問いただしました。これに対し、税務署員は「第三者がいては調査できない。理由は調査してみなければわからない」と高飛車な態度をとりましたので、Bさんはこの日の調査に応じませんでした。そこで税務署側は、Bさんの取引関係の調査をはじめました。
 ある日、農協からBさんのところに、「税務署員がやってきて断わっても帰らないのでしようがなく調査に応じている」という連絡が入りました。びっくりしたBさんらは現場に出かけていって、税務署員に対し、「このような調査は違法だ」と抗議し、二時間にわたり、「調査の理由開示」や「納税制度」の問題等について議論となりました。その際、税務署員のメモが破れたとか、Bさんらが職員の片腕にふれたなどという理由で、後日Bさんらは「公務執行妨害罪」で逮捕、起訴されてしまったのです。

スポンサーリンク

税務署職員が税務調査をなし得る権限は、所得税法第二三四条および法人税法第一五三条に規定されており、これは、被調査者が適法な調査について答弁しなかったり、検査を拒否した場合に、不答弁罪で処罰されるという範囲で強制力をもっているとはいうものの、あくまでも任意調査であることは既に述べた通りです。しかもこの調査権は、実体税法の調査権といわれるもので、その目的は適正な課税処分を行なうための資料を得ることに限られています。従って、税務職員であろうとも「調査」という名目さえつければ何でもできる、と言うことにはなりません。そして、納税者には、違法な調査に抗議し、それを拒否する権利があるのです。
 前述の千葉民商会員Aさんのケースは、推計課税を争う行政訴訟にまで発展しました。一審の千葉地裁は、昭和四六年一月二七日、Aさんの主張を全面的に認めた判決をくだしましたが、その理由の中で「税務署がAさんの私信にあたる民商の総会通知の葉書を写したり、調査の理由を告げなかったのは違法な調査であり、Aさんがこの調査を拒否したのには合理的な理由があり、正当な権利の行使である。調査ができなかった責任は税務署側の不誠意な態度にあるからその為に実額が把握し得なかったとしても推計課税は許されない」旨判示しました。
 静岡のBさんのケースでは、当然、税務署職員の調査権の行使が適法であったか否かが問われることになりましたが、一審の静岡地裁は、昭和四七年二月九日、つぎのような理由で、Bさんらに無罪の判決を言い渡しました。
 「(披調査者が調査理由の開示を要求するのは)不当な質問検査権の行使から納税者の正当な権利を守るため、納税者自身に与えられた重要な権利の行使である」。また、「納税者にとって反面調査がなされるということは、取引先の信用を損うことに直結し、しかも現在の社会状況では、納税者の人格さえ疑われるということになるおそれが十分にあるのであって、場合によってはその者の経済界における生命を絶つおそれさえある。したがって、反面調査をなすための必要性の要件もこれまた厳格に解さねばならない。」「税務職員の本件反面調査は違法であり、それを阻止したからといって公務執行妨害罪は成立しない」。
 税務職員が質問検査権等を濫用し、納税者やその関係者に威圧を加え、帳簿書類の呈示や提出を強要したときには、刑法第一九三条の公務員職権濫用罪が成立する、と認められる場合があります。また、納税者の承諾もないのに書類等を持ち帰ったり、調査だということで承諾なく住居に入りこんで、「帰ってくれ」という要求にも応じないような場合には、刑法第二三五条の窃盗罪とか同法第一三〇条の住民侵入罪に該当することも考えられます。このような被害にあった納税者は、刑事事件として当該税務職員を警察か検察庁に告訴した方がよいかどうか、すぐ信頼できる弁護士に相談しましょう。
 税務職員の違法な職権濫用による被害者は、その経済的、精神的損害の賠償を請求することができます。直接に違法行為をした税務職員に対し、民法第七〇九条の不法行為による損害賠償責任を追求できるのは当然ですが、国に対しても国家賠償法第一条第一項の「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。」の規定により、損害賠償を請求することができます。

家計と暮らし
生活保護法による医療扶助を受けるには/ 生活困窮のために教育扶助を受けるには/ 不当に生活保護が打ち切られたらどうしたらよいか/ 修正申告に応じたが、どうしても納得できない場合/ 不当な推計課税を受けたときにはどのような方法で対抗したらよいか/ 不当な税務調査に納税者が対抗するには/ 税務職員による違法調査の責任を追及するには/

        copyrght(c).家計と暮らし.all rights reserved

スポンサーリンク

プライバシーポリシー