修正申告に応じたが、どうしても納得できない場合

私は、所得税の確定申告について、税務署から、過少申告なので修正申告するよういわれ「もししなければ過去の申告も遡って更正決定をする」とか「重加算税をかけることになる」とか言われたので、やむを得ず妥協した額で署名捺印しました。しかしどうしても納得しかねたので、さらに減額を求める「更生」の請求をしたところ、却って四年も遡って更正決定をしてきました。どうしたらいいのでしょうか。

 憲法第三〇条は「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負う」と定めていますが、同第八四条は「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」と規定しています。これは、国民が納税の義務を負うものであることを宣言した規定であることはいうまでもありませんが、同時に大切なことは、国家が国民に対し税金を賦課、徴収するためには、あらかじめ「法律」で定めておかなければできないという規定でもあるのです。すなわち「国家は法律に定めるところによらなければ国民に税金を課し、納めさせることができない」ということ、それを裏返していえば「国民は法律の定めるところによってのみ税金を納めればよい」ということを意味することになります。この原則を「租税法律主義の原則」といいます。この原則の基礎にある考え方は、国家の勝手な課税、徴収を「法律」でしばることによって、国民の財産権を守るということにあります。従って「税法は税をとるためにある」のではなく「税法は税をとらないためにある」のであり「税法は国家のためにある」のではなく「税法は国民のためにある」といえます。

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法律は、誰が(国)、誰から(納税義務者)、何について(課税物件)、いくらの税金を(課税標準・税率)、収納し得るかということを前項の租税法律主義の原則にもとづいて規定しています。従ってこれにあてはまる人について、これにあてはまる事実が存在するときに、その人に納税義務が発生することになりますが、この段階では、いまだいくらの税金を、いつまでに、どこに納めなければならないかということまで確定されたことにはなりません。これを一般には「抽象的納税義務」と呼んでいますが、本問場合のような所得税では、この「抽象的納税義務」が発生するのは暦年の終了の時となっています。
 さらにその内容を具体的に確定させるための手続として、法律は、源泉徴収にかかる所得税等を除いた所得税について、原則として納税義務者自らが、課税物件を確定、確認し、これに関係法令に定められている課税標準および税率を適用して税額の計算を行なった上で申告する方式、すなわち申告納税方式を採用しています。このようにして確定された納税義務のことを、一般には「具体的納税義務」といいます。
 具体的な納税義務を確定させる方式には、以上のような申告納税方式とは別に今一つ賦課課税方式というのがあります。これは、「納税すべき税額がもっぱら税務署長又は税関長の処分により確定する方式」をいいます。現行税法が、この賦課課税方式をとらず申告納税方式を原則として採用したことは税金を、誰が、いくら納めるか、ということを、国の、税務署の意思によってきめるよりも、その内容を最もよく知っているであろう納税者自らに確定させることが公正、公平な納税制度により合致するものとしたからです。またそれが納税義務履行の確保にもなるからです。
 従って、本間の場合、質問者が自己の申告に間違いがあったと思っていない以上、税務署が修正をすすめるからといってそれに応ずる必要はありませんし、またそれに応ずることは、以上のような法律の規定に反することになります。
 納税者が申告した額について自らその内容を変更する手段としては、税法上、「修正申告」と「更正の請求」があります。修正申告は法定の申告期限前後を問わず、税額を増額する必要がある場合に認められるもので、理由等の記載は一切必要なく、申告すればそのとおり確定します。これに対して「更正の請求」は法定申告期限後一年以内に税額を減額する必要がある場合に認められるもので、その更正の請求をする理由、当該請求をするに至った事情の詳細その他、参考となるべき事項を記載した上で請求できます。しかも納税者が請求すればそのまま認められるものではなく、税務署が調査した上で、確かに最初の申告が多過ぎたと認めた場合にのみ「更正」されます。以上のように、納税者が申告した額を増額する場合と減額したい場合とでは、手続の上で大きな違いがあるということを注意する必要があります。
 さらに税務署は納税者の申告額について「その納税申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったとき、その他当該課税標準等又は税額等がその調査したところと異るときは」これを少ないとみて「更正」することができます。従って税務署が、納税者の申告額について、真に過少であるという疑いをもち、またそれを認めさせる資料をもっているというのであるならば、本来その理由を明示して「更正」すべきが筋道です。しかし税務署も確たる資料もなく、一般的水準によって増額をはかろうとするものですから、後々まで不服申立て、訴訟などの争いがもち越されれば面倒になります。そこで「更正」を避けて、同じ目的を達し、しかも納税者にとってその争いが難しい「修正申告」を強要することになるのです。
 税務署に不当な修正申告を強要された場合には、先ず落ち着いて、納税者の立場にたってその額を充分に検討することです。税務署は自信ありげに修正額をすすめているように思えるかもわかりませんが、決して合理的に根拠のあるものでないことは明らかでしょう。いくら強要されるからといっても、納得がいかない以上修正申告をしないことが第一に大切です。ただし、税務署はあらかじめ申告用紙を用意して、納税者に考える時間を与えることなく、その場で署名、押印させることもありますので、その手にのらないよう注意しましょう。たまたま相談に行った納税者が、印鑑をもっていないからといって断わったにもかかわらず、栂印でもよいといって無理矢理署名させた例もあります。納税者一人一人が、自らの申告額に確信をもち、自由申告制度の趣旨を充分認識し、権利を行使する観点に立つことが基本といえましょう。
 しかし、納税者が一人で、いくら頑張るからといっても、強大な権力をもって迫ってくる税務署と対決することはなかなか大変なことです。まして複雑な税務知識および難解な用語でせめたてられれば、いくら確信があるといっても、不安になってきます。また何が妥当でかつ正しい税額であるかも、曖昧になってくることもあるでしょう。
 このように納税者が、税金問題で困っている場合、真に納税者の立場にたって相談にのってくれる団体として各地の「民主商工会」があります。また、税理士のなかにも税制の民主化のため努力している人たちが数多くいます。そういうところに気軽に行きましょう。修正申告はそれからでも遅くはありません。
 税務署の圧力に負けて修正申告に応じた場合でも、それに誤りがあり税額が過大になっているときには、納税者は「更正の請求」をすることができます。更正の請求書には、更正を求める理由その他参考になる事項を記載し、税務署長に提出します。
 納税者は、この税務署の更正処分について不服である場合には、まず税務署長に対して異議申立てができ、さらに国税不服審判所に対し審査請求することができます。そして審査請求の裁決にも不服である場合には行政訴訟ということになります。

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