不当に生活保護が打ち切られたらどうしたらよいか

憲法第二五条は、権利としての社会保障を認めたものです。したがって、最低限度の生活を保障しさえすれば良いというものではなく、その保障の仕方や手続も、被保護者を人間として充分な尊敬と愛情を伴ったものでなければなりません。一九五二年の国際連合の社会保障関係報告書でも、公的扶助における手続的権利とは「手続が人間的に公平公明に敬意ある態度で人格の尊厳を尊重するように冷静に迅速かつ効果的に進められるよう要求する権利であり、これらの手続が保護申請者にとって破壊的でなく建設的な意味をもつようでなければならない」と、指摘されています。ところが、わが国で現実に行なわれている保護行政が、そのような精神からはるかに遠ざかった状態にあります。
 生活保護法によって保護の停止または廃止が認められるのは、保護の必要がなくなった場合か、福祉事務所または民生委員等保護実施機関の正当な調査や指示に従わない場合に限られております。
 生活保護法第五六条は「被保護者は、正当な理由がなければ、既に決定された保護を不利益に変更されることがない。」と定めています。このことを不利益変更禁止の原則と呼んでおります。要するに、正当な理由がない限り、保護を停止されたり、廃止されたり、または扶助を減額されたり等々の不利益な変更は許されないということです。そして、例外として不利益変更が認められるのは、正当な理由がある場合に限られますが、生活保護法では、その「正当な理由」がある場合とは、同法第二六条一項、第ニ八条四項、第六二条三項の三つの場合だけであることを明らかにしています。結局、保護の停廃止等が許されるのは、この三つの場合しかないということになります。

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まず第一に、保護の停廃止が行なわれるのは被保護者が保護を必要としなくなった場合です。この被保護者が保護を必要としなくなった場合とは、毎月の収入が被保護世帯の生活を維持するに足るものと認められる場合を言います。これは、被保護世帯の自立更正が出来たかどうかを基準に考えられますので、一ヵ月やニヵ月間、たまたま生計を維持するに足る収入があったというだけでは自立更正とは考えられませんので、一定の長期間、安定した収入があり、今後も生計を維持するに足る収入の継続が確実な場合に初めて、保護の廃止ということになります。また、一定の期間、安定した収入があったが、今後もその収入が継続するかどうか確実ではないときには、一定期間のようすをみるということで、とりあえず保護を停止するということになります。
 従って、従前と収入状態がまったく変わっていない場合に、保護の必要がなくなったとして保護を停止しまたは廃止することは、生活保護法第二六条、同五六条に違反し無効です。
 生活保護法第ニ八条一項は「保護の実施機関は、保護の決定又は実施のため必要があるときは、要保護者の資産状況、健康状態その他の事項を調査するために、要保護者について、当該吏員に、その居住の場所に立入り、これらの事項を調査させ、又は当該要保護者に対して、保護の実施機関の指定する医師若しくは歯科医師の検診を受けるべき旨を命ずることができる。」と定めています。そして、同法第二八条四項は、この規定を受けて「保護の実施機関は、要保護者が第一項の規定による立入調査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は医師若しくは歯科医師の検診を受けるべき旨の命令に従わないときは、保護の開始若しくは変更の申請を却下し、又は保護の変更、停止若しくは廃止をすることができる。」と定めています。
 これらの条文を形式的にみると、何か、保護の実施機関の言いなりにならなければ、保護の停廃止をされても、やむをえないのではないかとの疑問が湧くかも知れません。しかし、第二八条一項の立入調査、検診その他の調査は、あくまでも「保護の決定又は実施のため必要があるとき」でなければ、行なってはならないものです。ですから、ここでいう「必要があるとき」とは、客観的に必要があるときという意味であって、保護実施機関が、勝手に何の合理的根拠もなく、「必要がある」と考えたとしても、その立入調査その他は違法であって、被保護者はそれに応ずる法律上の義務はありません。
 生活扶助は、原則として被保護者の居宅において行なわれますが、例外的に、救護施設、更正施設その他の施設に被保護者を収容したり、あるいはそれらの施設や私人の家庭に収容を委託して行なうことができます。その場合に、被保護者は、その保護施設の管理規定に従わなければならず、その他、保護実施機関の行なう指導または指示に従わなければなりません。そして、この義務に従わないときには、保護の変更、停止または廃止をすることができることになっております。この場合にも、当然のことですが、違反したとされる保護施設の管理規定または保護実施機関の指導または指示が、必要かつ合理的内容のものでなければなりません。
 いずれの場合でも、保護を停止し、あるいは廃止するには、保護の実施機関が公文書で被保護者に通知しなければなりません。ですから、口頭によって通知しても、それは無効です。
 また、生活保護法第六二条三項によって保護施設の管理規定違反または保護実施機関の指導指示違反を理由として保護を変更、停止または廃止する場合には、その前に、あらかじめ被保護者に弁明の機会を与えなければならず、そのために事前にその不利益処分をする理由と弁明をきく日時、場所を通知しなければなりません。もし、弁明の機会を与えられずに保護の停廃止、変更が決定されても、それは違法であって無効です。
 保護の実施機関による保護の変更、停廃止など、被保護者にとって不利益な処分については、正式に不服を申し立てることができます。市町村長、特別区長が行なった処分またはその管理に属する行政庁に委任した事務についての処分については、都道府県知事に対して、その処分の取消しを求めて 審査請求を行なうことができます。
 この審査請求を受けた都道府県知事は、請求のあった日から五〇日以内に「裁決」をしなければなりません。また、都道府県知事の行なった審査請求についてこの裁決に不服があるときには、厚生労働大臣に対して再審査請求を申し立てることができ、この場合、厚生労働大臣は、再審査請 求のあった日から七〇日以内に「裁決」しなければなりません。
 さらに、保護の実施機関の行なった処分については、裁判所にその取消しを求める裁判を起こすことができますが、その場合には、裁判を起こす前に、審査請求を起こして、それについての裁決が出されたあとでなければならないことになっておりますので、この点は注意しておいた方が良いでしょう。
 ケースワーカーなどが被保護者の人権を踏みにじるような言動をとったときは、法務局その他の人権擁護機関や団体に救済を求めるのも一つの方法です。また、ケースワーカーなどの行為が刑法の職権濫用罪等にあたるときは、告訴、告発をもってその刑事責任を追及することができますし、国家賠償法による損害賠償を請求することも可能です。
 生活保護を受けている人びとの権利擁護と相互扶助を目的に、全国各地に「生活と健康を守る会」「生活互助会」などの名称で、生活保護者の自主的な団体が組織されて、活発に活動しています。生活保護を受けようとしても認められなかったり、不当に保護を打ち切られたりしたようなときには、一人で悩み苦しみ、あげくの果ては自殺しようとまで思いつめる前に、これらの団体に相談するようにおすすめします。

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