家屋明渡の正当事由の存在時期

民法の原則からすれば、期間の定めのない賃貸借契約は当事者においていつでも解約の申入をすることができ、ただそれが継続的債権関係であるので、その後一定期間継続すぺきものとされており、期間の定めある賃貸借契約は、その期間の経過によって終了しますが、継続的な債権関係にあっては特別なことがなければそのまま更新されでいくのが普通の状態なので、契約の末期または期間終了後に当事者が特別の意思表示をしなけれぱ、さらに延長するものと推定されるのです。借家法は、当初、この基本線にそつて、解約権を制限することなくまた契約期間の経過によるその終了を前提として、解約申入を六月前になすこと、期間の定めある場合の黙示の更新をすることこの更新規定を解約申入による終了の場合にも準用することというかたちで出現したのです。ところが、昭和一六年の改正によって、契約期間満了前六月前の予告義務のうえになりたつ法定更新と正当事由がなけれぱ更新拒絶も解約申込もできないという規定が創設されたのです。この法定更新には従来の黙示の更新と有無相通ずるものがありますが、正当の事由は根本的な変革です。つまり、所有の自由、契約の自由にともなう解約の自由は成文的に抑制され、契約期間を定めてその間の使用収益権を賃借人に委ねた場合にも正当事由が存しないかぎり契約をたちきることができなくなったのです。もっとも、正当の事由は、当初、賃貸人の個人的具体的事情の正当性にかかわる問題として取扱われ、解約申入ないし更新拒絶の有効要件としての正当事由を原因とする裁判は、すでになされた解約の有効無効、つまり、賃貸借関係がすでに消滅したのか、それとも存続しているのかの確認、ないし、それにもとづく給付の裁判であり、既存の法律関係の確認もしくはそれにもとづく給付の典型的な民事訴訟との遊離はみられず、したがって、正当事由も解約申込ないし更新拒絶の意思表示の際に存在するを要し、なんらの問題も生じることはなかったのです。しかし、戦争末期から極度の異常な住宅難を処理すべき任務が借家法に課せられ、その結果、正当事由は賃貸人、賃借人双方のあらゆる事情の具体な比較衡量によって判断されるにいたり、さらに、借家法の趣旨を強力におし進めその機能を充分に発揮せしめるために、その裁判は、既存の法律関係の確認ないしそれにもとづく給付というかたちにおいてではなく、工当事由の在否自体の判断も裁判時を基準として裁判官による合理的な解決に委ね、裁判により新しい権利関係を創設せしめようとする傾向がでてき、かくて、終戦後から正当事由がいかなる時期において存在しなければならないかという問題が表面化するにおよんだのです。ここでは、具体的妥当性と法的安定性の調和が問題となるのです。

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正当事由の存在時期および存続期間に関して、見解は次のように大別されます。
(1)解約申込当時に正当事由が存在するを要し、これをもってたるとするもの。
(2)解約申込のときから六ヶ月後解約の効力を生じるまで正当の事由が存続しなければならず、かつこれをもってたるとするもの。(3)解約申込を原因とする訴訟がなされた場合には、解約申入当時より事実審の口頭弁論終結のときまで正当事由が存続するを要するとするもの。訴訟捉起の場合には、正当事由は解約申込のときになくとも、口頭弁論終結の六ヶ月前に存すれぱよいとするもの。訴訟提起の場合には、解約申入のときには正当事由がなくとも、口頭弁論終結のときまでに在すればたるとするもの。
(4)解約申入後口頭弁論終結のときまで正当事由が存続し明渡請求を容認する判決があった場合でも、正当事由はこの判決による執行が終るまで在続しなけれぱならず、口頭弁論終結後正当事由が消滅すれば、それを原因としてこの判決に対する請求異議の訴を提起することができ、したがって、仮処分として判決にもとづく強制執行の停止をなしうるとするもの。
そもそも、借家法三条一項は、法文の表現は異なりますが、期間の定めのない賃貸借契約の解約に関する民法六一七条をうけて、ただ賃貸人のなす解約申入の期間を六ヶ月に延長したにすぎず、このことは、立法過程において、両者同じ性質のものであることを前提としています。告知期間をたもつてなされる告知についていえば、解約の申込が有効になされさえすれぱ一定期間経過後に賃貸借関係の収量という解約の効力が生じるのであって、正当の事由は借家法上の解約権行使の有効要件にすぎないため、正当事由は解約申込がなされた時点において存すればたり、その後の諸事情は一切これを考慮するを要しないこととなります。その意味では、当然には、解約申入のときに正当事由があっても六ヶ月経過したときになけれぱ解約の効力を生じないことは明らかであるとはいえません。また、このような正当事由の六ヶ月間の持続は、賃貸借契約が継続的債権関係であるということから、理由づけられることがあります。しかし、継続的債権関係ということからは、賃貸借を終了せしめるだけの合理的な理由がある場合でも、貸貸人に新たな生活の本拠をもとめる猶予を与えて生活の基礎に安定をえせしめるために、六ヶ月という解約申込期間が存在するということの説明にはなっても、正当事由が解約申込後も存続しなければならないという法律要件の存在を主張しうる根拠となるものではありません。むしろ、一定期間経過後に解約の効力を生ぜしめる解約申入という意思表示そのものの効力は、その行為時を標準として認められなけれぱなりません。そのかぎりでは、借家法一条の二によれぱ、建物の賃貸人は正当の事由ある場合でなけれぱ解約の申込を為すことができないものであること勿論ですが、その正当の事由あることは解約申入の有効要件に外ならないのであるため、一旦有効になされた解約の申入が爾後の事情の変動によりその正当性を喪失し無効に帰すべきいわれはないというべきです。これは伝統的な解釈といえます。

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