賃貸借契約の成立

アパートの賃貸借は、木造アパートのものであれ鉄筋コンクリート高級アパートであれ、いずれも当初から賃貸を営業として行なうことが予定されているのであり、したがって、賃貸借契約も多数人と反覆的に行なうことが予想されているため、不動文字で印刷された契約書を介してこれを行なうのが通常です。そして、契約書式は、貸主側が作成するのであるため、もつぱら貸主側に有利な内容になつていることは当然です。借主にとっては、空白箇所を埋めることの外契約内容決定の自由はほとんどなく、契約の自由は、一定の型の契約を締結するかしないかの自由、とくにかかる契約をしないことの自由として残っているにすぎません。それでも経済的弱者とはいえない鉄筋コンクリート高級アパートの借主の場合には問題は少ないでしょうが、住宅に全く困窮している低所得層の木造アパートの借主にとっては、借家法による保護があるとはいえ、問題がないわけではありません。同じく不動文字で印刷された契約書ひな型を使うとはいえ、一般に木造アパートと鉄筋コンクリート高級アパートの場合とでは、後者の方が前者に比しはるかに詳細です。後者の場合は、大資本を擁する会社が法的に万事そつのないものを作成することによるものであると同時に、賃借物件の諸設備が前者と後者とでは段違いに差があり、これらの使用上の注意義務についての規定が入っていることも後者の方が一層詳細な契約書となっていることの理由といえます。現に多くの鉄筋コンクリート高級アパートでは賃貸借契約の他にさらに管理規則を作成し、アパートという構造上当然の共用設備に対する使用規則や、共同生活を営む上で起りうる諸問題に関する賃借人の注意義務を定め、かつかかる規則は当然に各個の賃貸借契約と合してその一部をなすと約定していることが多く、これに対して小資本の個人家主の営む木造アパートの場合には、わざわざ契約書に使用規用を書きこむほどの設備があるわけではなく、また、実際問題として、木造アパートの賃貸借をめぐる法的紛争がおこり、それが裁判所にまで持ち出されて争われることは一般の借家の場合に比し極めて稀であるということもあるのでしょうが、標準的な契約書のひな型を買ってきてそれで間にあわしているようなものが多いようです。このようなひな型も十分貸主に有利な内容となっているのです。鉄筋コンクリート高級アパートの管理規則の規則制定権の性格については若干問題があります。例えば、管理規則が賃貸借契約の内容となっている場合、契約成立後、貸主が一方的に管理規則を変更しうるかどうかという問題です。かような規則制定権は、アパート式の集合住宅という構造的、技術的特殊様式からある程度までは不可避的に必要であると思われ、また事実そこで扱われる事項は共用部分等についての比較的詳細な技術的ルールに関するものが多いため、貸主に或る程度の一方的変更権を認めても個々の賃借人の固有の利益を害することはまずないといえます。

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家計と暮らし

アパート賃貸借の予約は鉄筋コンクリート高級アパートにみられる事例ですが、ながなか需要が多いらしく、それに応する一手段として、賃貸借の予約制が設けられている事例があります。この制度は、現在は空室ではないが現居者が明渡を確約している室について、あらかじめ新規申込者と貸主との間で賃貸借契約を締結しておくものです。契約書によると、明渡を確約している期日までに貸主が現居住者から貸室の返還をうけえなかった場合には契約は当然その効力を失う旨定められているため、賃貸借契約の予約というよりは、むしろ、一種の条件付賃貸借契約だとみるのが妥当です。それはともかく、借主はこの契約締結と同時に保証金として賃料二カ月分相当額を貸主に支払うことになっており、この保証金は後に賃借物件が借主に引渡されて契約の効力発生が確定的なものとなったときには敷金の一部に充当され、引渡が不能となり契約の効力が確定的に消滅してしまえば借主に返還されます。この場合、買主はその不能が自己の責に帰すべき事由によるものでない限り、保証金の返還の他にはなんらの責任を負わないものとします。また、引渡日に借主が賃貸物件の引渡に応じなかったとき、あるいは、借主が期日前にこの契約の解約を申出た場合には、前記保証金は違約金として貸主の領得に帰するものとします。
戦前の、ないしは戦前からの建物賃貸借契約においては、存続期間の定めのないものが非常に多かったようですが、戦後に新築された建物の賃貸借契約は、期間の定めのないものが少ないようです。そして、大体一年が三年程度までの期間を定めるものが多く、そのうちでも二カ年とするものが最も多く、期間の定めがあってもなくても、賃借人が更新の拒絶をし、解約申込をするにはいずれも正当事由を必要とするため同じようなものであるにもかかわらず、このような傾向がみられるのは、なんらかの形で権利金が授受され、それを期間を定めるものが多いものと思われます。したがってまた、そこには、契約更新の際の権利金の収受とが、賃料増額のきっかけをつくることが見込まれているものと一般的に推測され、実際にまたそういう実例をよく耳にします。
木造アパートの賃貸借契約においては、今日においてもなお、契約締結の際に権利金ないし礼金名義で賃料の何力月分かに相当する全額を、敷金とは別個に収受する慣行が失われていません。さすがに大資本の手になる鉄筋コンクリート高級アパート下においてはかかる権利金の収受は今日では行なわれないようです。そもそも、一般の住宅の賃貸について、権利金の授受が行なわれるようになったのは、昭和一五年に地代家賃統制令がでてからです。戦後の猛烈なインフレの時代において、統制個額があまりにも低く押えられ社会の実状にそぐわなかった時代の統制令免脱のための権利金の収受は、たとえそれが脱法行為であったとはいえ、それなりに存在理由を持ち得ていたのですが、昭和二五年七月以降に新築された、それ故に統制令の適用をうけない、そして高額の賃料を実際にとっている木造アパートの賃貸借についてまで権利金の取受が依然として行なわれているのは合理的理由を欠くというほかありません。それが木造アパートの住まい手である低所得階層の賃料負担を一層重からしめている実状を考えるとき一日も早く止めらるべき悪慣行といわねばなりません。

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