賃借権の相続

家屋賃借権は民法上財産権であり、また、使用貸借に関する民法五九九条のように、借主の死亡によってその効力を失う旨の規定もないところから、相続の対象となることは当然であるとされていました。その結果、借家人が死亡すると、賃借権は同居しなかった相続人に承継され、同居していた他の親族や内縁の妻子が居住を奪われるという場合も起ってきます。戦後、住宅難の激化、及び、改正民法の均分相続制によって、これが問題として論じられるようになり、特に内縁の妻が引続き借家に居住し得るかという形で問題となりました。それは、家主との関係においてでしたが、同居していない相続人からの明渡請求としても問題となり得るものです。その後、家主からの賃料請求や解除の場合に誰を相手とすべきかという形でも論じられました。なお、借地に関しても同様の問題を生じ得ます。従来、判例及び学説が多岐にわたる解決を試みており、立法の方向も示され、その理論構成も出つくした感があります。判例は、主として、下級審で争われていますが、多くは、民法的原理に従って、借家権の相続性を承認しています。

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判例が、おおむね、賃借権の相続性を原則的に肯定しながら、相続権のない同居家族の保護に努力しているのに対して、学説は、むしろ、賃借権の相続性を否定する見解に傾いているといえます。その中で、賃借権の相続性を承認しているとみられるものを、援用説及び占有補助者説に分つことができます。
援用説では賃借権の相続性を肯定しながら、内縁の妻等の同居家族は、相続人の賃借権を援用することによって居住の継続を主張し得るとするものです。相続原理を承認する点で、いわば王道的な考え方といえますが、しかし、相続人が同居家族の居住を拒否した場合とか、賃借権を放棄したとさ、または、相続人不存在の場合には不都合を生じます。
占有補助者説では賃借権の相続性を肯定する点では援用説と同様ですが、相続人が別居し、被相続人との共同生活者のみが借家に居住している場合に、共同生活者は、相続人の借家に対する占有補助者の形で引続き当該家屋に居住し得るとするものです。この説も、相続人が積極的に明渡を請求したような場合には、占有補助者たる地位の認容が困難となり、援用説と同じようにこれを用いることができません。そこで、学説の多くは、賃借権の相続性を全面的または部分的に否定し、或いは、肯定しつつも、相続権のない同居家族のためにあらたな法的概念の構成に努力します。これをさらに、家団論、折衷説、居住権論、準相続権説等に分つことができます。
賃借権の相続性を全面的に否定する見解の代表的なものは家団論です。家屋賃借権はその特殊性のゆえに相続人に承継されることなく、家団的に承継されるとするものです。これは賃借人とその家族は当該賃借家屋を中心として一個の集団、つまり家団を構成します。家屋賃借契約の実体は、賃貸人、賃借人間の個人契約の外観を備えるにかかわらず、賃貸人と賃借人所属の家団との間に成立するものと解するのが至当であり、契約面に現われる賃借人は単に家固の代表者たる資格を有するに過ぎません。従って、代表者たる賃借人の死亡は、家団の同一性に変更なきものと認められる限り、賃貸借契約の存続になんらの影響なきものといい得ます。この場合家団の残存者は家団員の中から改めて適当のもの、多くの場合前主に代って家団の主宰者となろべき者を選出して代表者たるの地位に就かしめば足ります。内縁寡婦の居住権の問題の如きも、相続法理を以てしては到底満足な救済は求め得ず、家団法理を以てしてこそはじめて円満な解決が試み得られるというのです。家屋の賃貸借契約は家主と一つの生活共同体との間に結ばれるものであり、その生活共同体の代表者たる賃借名義人が死亡したとしても賃貸借契約はなんら同一性を失うことなしに残存する生活共同体員と家主との間に存続すると考えるべきであるため、相続人でも当該家屋に住んでいない場合には、その家量に対して主張すべきなんらの権利も有しません。賃借名義人が死亡しても賃借権については相続は起らず、賃貸借は残存生活共同体との間に存続すると説かれます。
この学説は、論者自ら主張せられる如く、もっとも社会の実情にかなった考え方であり、はなはだ魅力的な見解といえます。ただ、賃借権の相続を正面から否定することに対しては、賛否が分れます。つまり、立法論としてはとも角、解釈論としては難点がある、借家権を相続から排除するためには財産権でないとしなければなりませんが、敷金や造作の附加、改造、滞納家賃等について、それが果して財産権でないといえるか疑問であり、また、一身専属権であるとすると、被相続人の死亡とともに消滅すべきはすであり、矛盾を生じます、さらに、家団論は、家的色彩をもたらすおそれもあると評されます。また、不法行為としての家団、取引関係の当事者としての家団のごとき考え方の場合には、家団自体は静的にのみ考察されますが、借家権の相続においては、家団員の更迭、編入が問題となるため、家団の存在が動的となり、そのため、家団の同一性が保たれているかどうかの疑問を生じる点も併せて指摘されています。

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