統制令の適用のない場合の権利金

権利金とは、宅地建物の賃貸借に附随して敷金のほかに授受される金銭ですが、敷金と同じく社会上の概念とされています。敷金はその形態が単一でその内容も明確であるに反し、権利金は形態が多様でその内容が不明確です。したがって敷金の場合には単一の形態の敷金関係に関し、幾つかの法律的構成がなされ、それにもとづく法律関係の当否が争われたのに反し、権利金の場合には幾つかの形態に応じたそれぞれの法律的構成にもとづいて法律関係が如何ように展開されるかが問題とされました。権利金は営業権の対価、賃料の前払、賃借権に譲渡性を与える対価の三形態に大別されます。第一の営業権の対価に該当する権利金は、営業上の利益取得の対価であり、場所代つまり店舗その他営業用建物の有する特殊の場所的利益取得の対価、暖簾代すなわち永年老館として世間に著名であったという営業上の要素取得の対価、造作代すなわち既設の節窓、陣列棚その他有形造作取得の対価を総括したものですが、場所的利益取得の対価をもって営業上の利益取得の対価の核心とする見解もあります。かかる場所的利益は常に営業と関連するとは限らず居宅に附加されることもあるので、したがって、居宅賃貸借においても、場所的利益取等の対価としての権利金が存在します。なお、営業上の利益の対価としては以上のような営業上の利益の取得の対価のほかに営業上の利益の享有の対価が考慮されています。第二の賃科の前払に該当する権利金は、建物使用そのものの対価たる家賃の一部の一括前払に当るものであり、賃貸人が一時にまとまった金銭を必要とし、賃借人もそれに応じてそれだけの金銭を支払う能力がある場合にのみ授受されるものです。第三の賃借権に譲渡性を与える対価に該当する権利金は最もその内容が不明なものとされていますが、賃借権の譲渡性を承認することによって賃借権に交換価値を与える対価として支払われるものです。これらは理想型であって実際には種々の混合形態が存します。

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統制令の適用のない場合にこれら権利金は返還されるでしょうか。営業権の対値としての権利金は、一種の財産権たる営業上の利益を取得する対価であるため、賃貸借が終了する場合には、賃借人は賃貸人に対しその財産権を返還する代りに相当の対価を受けることができます。ここで問題にする営業上の利益は、賃貸借契約締結前に既に建物に附加されてあったものでなければなりませんが、賃貸借契約締約後に附加されたものの取扱いもそれに準じます。対価を支払って取得した営業上の利益は、期間の経過に応じて償却されるものではないため、賃貸借の期間満了によって終了する場合であると、期間途中に終了する場合であるとを問わずその対価全額の返還を求めることができます。それに反して、対価を支払って享有する営業上の利益は、期間の経過に応じて償却されるので、賃貸借が期間満了によって終了する場合にはその対価の返還を求めることができません。ただ期間途中に終了する場合には残存期間相当分の利益が残るのでその対価の返還を求めることができます。
営業上の利益取得の対価たる権利金については、借家法五条所定の造作として、その買取を請求できるかが問題です。借家法五条は営業用でない通常の造作に関し、それが賃貸借期間中に賃借建物の上に新しく賃借人の自力その他の事情で附加された場合であると、予め賃借建物に附加されてあったものを買受けた場合であるとを問わず適用しているので、同条が営業用の造作にも適用される限り、営業上の利益のうち既設の営業用有形造作にして賃借人が賃貸人から取得したものにも同条の適用が認められます。しかしながら、営業上の利益のうち、営業用の有形造作以外の場所的利益とか老舗とかいわれる無形造作を、前記借家法五条所定の造作と解しうるか否かについて学説上の見解がわかれ、これを肯定するものと否定するものとがあります。
賃料の前払としての権利金は、少くとも賃貸借が賃料の前払相当期間経過後に終了した場合には、返還さるべき賃料は残っていないので、かかる権利金の返還は全然認められませんが、賃貸借が賃料の前払相当期間内に終了する場合には、残存期間に相当する賃料の返還を求めることができます。
賃借権に譲渡性を与える対価としての権利金は、営業上の利益取得の対値、建物使用の対価ではなく、建物使用権に交換価値を与える対価です。したがって、かかる対価は実際には、賃借人が第三者に賃借権を譲渡することによって別途回収しうるも、賃貸人に対してその返還を求めることはできません。
賃貸借が期間途中に終了し、権利金が返還される場合であっても、賃貸借の終了事由の如何によってその返還の認否がさらに検討されなければなりません。つまり留保された解約権を賃借人が行使するとか、賃借人が合意解約するとか、いわば賃借人の都合で解約する場合、あるいは賃借人の債務不履行で解約される場合、貸借建物が不可抗力で消滅する場合に問題が残っています。
賃貸借終了の際に権利金は返還されるかについて判例を概観すると、まず東京地裁の大正一四年六月二三日の判決は、家屋焼失による賃貸措終了の場合に、場所的利益の対価たる権利金は賃借人から賃貸人に寄託されたものであるとしてその返還を認めました。しかるに、東京地裁の大正一五年三月三○日の判決は、賃貸人の都合で家屋明渡しをなさしめた場合には権利金を返還せしめる旨の特約がある場合であっても、賃貸人の責に帰すべき事由なく家屋が焼失した場合については、権利金を返還する旨の特約がなかったので、賃借権設定の対備たる権利金は返還されないとしました。その後、大審院の昭和六年六月一七日の判決は、原審が土地の賃貸借の解約の場合につき、その解約は将来に向かってのみ効力を生じるのであるため、権利金は返還されないとしたのに対し、民法六二○条所定の賃貸借の解除は将来に向ってのみ効力を生するとしても、権利金はすべて返還を要しないということにはならない、むしろ問題は権利金の性質を究明した上で判断しなければならぬとしました。最高裁の昭和二九年三月二日の判決は、最近になって、原審が場所的利益の対価たる権利金は、一旦賃借人が賃借建物を使用した以上、特約なき限り返還されるものでないと判示したのに対し、すでに十数年間も賃借建物を使用した場合には返還を受けることができないと判示して、権利金を支払って間もなく借家契約が終了したような場合には、反対に返還請求できる余地を残したのではないかと批評されています。

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