敷金返還債務

敷金とは、不動産特に建物の賃貸借にあたって、賃貸人の債権を担保するために賃借人又は第三者から賃貸人に交付される金銭であり、このような明確、単一の形態の敷金関係について学説は多岐にわたる法律的構成をなしていましたが、その代表的なものは債権質説と停止条件付返還債務を伴う金銭所有権移転説とです。前者は賃借人の賃貸人に対して有する敷金返還請求権の上に賃貸人が権利質権を取得するとするもので、定期預金証券をその銀行に担保とする場合と同性質の関係であり、後者は賃貸人が賃貸借終了の際に賃料延滞その他賃借人に債務不履行なきことを停止条件として返還する債務を負担することを約して金銭を受取るとするもので、譲渡担保などと同じく一種の信託行為とみることができます。現在では、債権質説は質権設定契約の成立、対抗要件、弁済方法などで多くの擬制を必要とするため、判例、学説とも停止条件説を支持します。もっともこの説は、その停止条件をいかに解するかで二説に分れました。従来停止条件は賃貸借終了に際して賃借人に債務不履行のないことと解されていましたが、これに対し継続的債権関係たる賃貸借では、当事者は賃貸借終了の前後によって、賃借建物を使用する対価の法律的性質が異なることをはっきり意識しないこと、また賃貸借終了時に敷訓返還請求権が発生したとすると賃借人の債権者によってそれが差押えられる場合に、賃貸人は賃貸借終了後、賃貸建物末返還による損害賠償債権とその敷金返還請求権とを相殺するこしとができなくなること、の二つの理由により停止条件は、むしろ賃貸借終了後賃借人が賃借建物を明渡した時に債務不履行のないことと解すべしとされるに至りました。判例は、古くは敷金関係の法律的構成について債権質説をとっていましたが、大正末年に、大審院は、終了時停止条件説をとるに至りました。

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敷金返還債務と賃借建物明渡債務とは同時履行の関係にたつでしょうか。債権質説では、賃借人はそのあらゆる債務を履行した後、つまり債務不履行を生じるべきあらゆる原因を除去し、したがって賃借建物を返還した後、はじめて散金の返還を求めることができます。つまり敷金返還債務は賃借建物明渡後に発生し履行期に達するのであり、換言すれば賃借建物明渡債務に先履行義務が課せられるのであるため、両債務は同時履行の関係にたちません。
終了停止条件説では、賃貸借が終了した時に、敷金返還債務と賃借建物明渡債務とはともに発生し履行期に達するので、この場合には両債務間には同時履行の関係を認めうるかが問題となりますが、それは賃貸借の解約を如何に解するかということに他なりません。つまり賃貸借の解約は解除と異なって遡及効はありませんが、しかし民法上の解除の一種であることには変りがありません。したがって解除効果に関する通則たる民法五四六条はかかる敷金返還債務と賃借建物明渡債務との関係にも適用し、賃貸借が期間満了によって終了する場合にも、前記解約の場合の理論を類推適用することができるので、両債務は同時履行の関係にたつといえます。しかし、明渡時停止条件説では、債権質説の場合と同じ理由から、敷金返還債務と賃借建物明渡債務とは同時履行の関係にたちません。
判例では、敷金関係の法律的構成について、前述のように大正末年の大審院の判例で終了時停止条件説を採用しましたが、下級審の判例はその後も依然賃借建物明渡債務に先履行義務を課しました。もっともそれは事案の直接の争点として、敷金返還債務と賃借建物明渡債務との関係を取扱ったものではありませんでした。その後の大審院の判例は敷金関係を終了時停止条件説で構成することを明らかにしながら、前述学説の見解と異なり賃貸借契約の解約は解除ではなく、したがって民法五四六条は敷金返還債務と賃借建物明渡債務との関係には通用されないとして、両債務間に同時履行の関係を認めませんでした。
敷金返還請求権のために賃借建物に留置権を生じるのでしょうか。債権質説では、賃借建物明渡債務に先履行義務を課するので敷金返還請求権のために賃借建物に留置権を生じません。終了時停止条件説では、見解は二つにわかれます。その一は、敷金返還請求権は賃借建物との関係で、民法二九五条にいう「共物ニ関シテ生シタル債権」に該当しないため留置権を認めないとするものであり、その二は、民法二九五条を広義に解し、敷金返還請求権は賃借建物との関係で同条所定の債権に該当するとして留置権を認めるとするものです。明渡停止条件説では、債権質説と同じ理由で留置権を認めません。

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