買取請求権制度

日本の法制の上では、土地と建物とは別個の所有権の客体とされているため、建物の所有者は、自由にその建物を処分することができるのですが、建物は土地の上にのみ存在し、敷地を離れた建物はありえないため、借地上の建物が処分されたときは、敷地の利用権を伴うものとしなけれぱ、建物の本来の効用を全うさせることができないわけです。ところで、借地上の建物所有者が地上権者である場合には、地上権は物権としてその譲渡や土地の賃貸は自由であるため、建物の処分に敷地の利用権を伴わしめることができますが、借地上の建物所有者が賃借人である場合には、賃借権は債権であるため、土地所有者の承諾がなけれぱ、建物の処分に敷地の利用権を伴わしめることができないものとされています。したがって、土地所有者が賃借権の譲渡または借地の転貸に対する承諾を拒めば、土地賃借人からその所有の建物を譲受けても、敷地の利用権が阻止されでいるため、建物の譲受人は、その建物を取毀して敷地を明渡さねばならないこととなります。しかしこれでは、建物の融通は阻害され、土地賃借人は借地上に建物の形で投下した資本回収の機会を制限されるだけでなく、まだ耐用年限に達しない建物の取毀しを要求されることも起り、社会経済上の立場からも問題です。しかも実情は、他人の土地に建物を所有しようとする者が地上権を取得することはきわめて少なく、ほとんどすべてが賃借人たるにすぎないのです。しかし、多くの点について地上権と賃借権とを同一に取扱っている借地法も、賃借権の譲渡または賃借物の転貸につき賃貸人の承諾を必要とする、という民法のたてまえを崩してはいません。つまり、借地法一○条は、第三者が賃借権の目的たる土地の上に存する建物、その他借地権者が権原に因りて土地に附属せしめたる物を取得したる物を場合に於て賃貸人が賃借権の譲渡又は転貸を承諸せざるときは賃貸人に対し時価を以て建物、その他借地権者が権原に因りて、土地に附属せしめたる物を買取るべきことを請求することを得と定めていますが、、これは、賃借権の譲渡または転貸を承諾するかどうかは賃貸人の自由ですが、承諾しない場合には賃貸人は建物を時価で買取らねぱならない、という妥協的な措置をとったものであり、これによつて、賃貸人の承諾を間接に強制して事実上賃借権に譲渡性を与え、建物の融通、したがって賃借人の投下資本の回収を容易にし、かつ、建物の保護をはかるという社会経済上の目的を達成しようとしているのです。もっとも、戦争による住宅の不足のために、賃貸人たる土地所有者が、時価による建物の買取りを負担と悪じなくなっている現在では、建物買取請求権がもっている賃貸人の承諾を間接に強制するという意義は薄くなり、社会経済上の立場から建物の保護をはかることにその意義が集中しているといえます。

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家計と暮らし

建物買取請求権が成立するためには、建物の譲受人がその譲渡人である敷地賃借人から賃借権の譲渡または転貸をうけたが、これに対して賃貸人が承諾を与えなかったことが必要です。建物の譲受人に買取請求権が生じるのは、借地権が賃借権である場合にかぎられますが、まず問題となるのは、敷地の賃借権が一時使用のために設定された場合にも買取請求権が成立するか、という点です。借地法九条が、一時的借地権について適用を除外している規定中には、一○条が含まれていないため、疑問が生じるのです。学説はわかれていますが、判例は一貫して買取請求権の成立を否定しています。
買取請求権を認める学説の理由とするところは、およそ次ぎのとおりです。一○条の買取請求権も、四条の買取請求権と同じように、建物の社会経済的価値の保全を目的とするものではありますが、両者が同趣旨のものであるからといって、一時的借地権について、四条の適用が明文により除外されていることとの権衝上、一○条の適用も除外すべきであるというのは早計です。四条の買取請求権は、借地権消滅の場合の問題であって、借地関係の継続をなしえない借地権者の利益を確保しょうとするものであるため、はじめから借地関係の継続を問題としない一時使用のための借地権に、これを認める必要がないのは当然です。しかし、一○条の買取請求権は、借地権の存続中における問題であって、建物をして借地権とともに融通性を取得させるよう土地所有者を間接に強制しようとするものであるため、一時使用のための借地権についても、借地上の建物の予定された経済的価値を保全するため、その存続期間内における譲渡性を買取請求権によって保護する必要がある、というのです。
一時使用のための賃貸借においては、その経済的価値を保存するに足りる建物が築造されるようなことはきわめて稀であるとしても、なお借地権の存続期間中であって予定された経済的価値が残っているかぎり、その価値を保護すべきではありますが、その方法は、当事者間の協議に委ねればよく、買取請求権の行使によることは、一時的賃貸借の特殊性からみて妥当でないと思われます。賃貸借における当事者間の個人的信頼関係の保護と、賃借権の譲渡性の保護とのどちらを重くみるべきかについて、一時的賃貸借では、普通の賃貸借とちがって、前者を重くみるべきだと考えられるからです。この点については、最判昭和二九年七月二○日が、詳細に考察して次ぎのようにのべているのが注目されます。つまり、貸主がもともと貸地とする意思で賃貸する普通の貸借においては、借主が誰であっても地代さえ取れれば貸主の当初の目的は大体達せられ、その地代も人的に信頼がなくても地上建物によって担保されているため、貸主は建物の買取を欲しないときは借地権の譲渡を商人すれぱよいのだという風にも考えられます。これに対し、一時的賃貸借は、特に借主に対する個人的信頼関係に重さをおくものであり、まったく借主個人の一時的目的に着服しての貸借であって、他人への譲渡などということは、もともと当事者の念頭にないものです。貸主は、賃貸借の期間が満了すれば明渡してもらうことを予期しており、この点が重要なのであるため、貸主が譲受人を信頼することができず、期間後の明渡について危惧の念を抱かしめられろような場合には、自由に拒絶できなければならないのであって、建物の買取というごとき重大な負担を負わされることはまったく堪えられないところです。もし買取請求を認めると、借主は、期間満了のまぎわに、貸主の信頼できないような人物に建物を譲渡すことによって、自己の費用をもって収去しなけれぱならない建物を事実上貸主に買取らせたのと同様な結果を得ることは容易である、というのであり、妥当な見解と思われます。
建物の譲受人が、敷地賃借人から賃借権の譲渡または転貸をうけることが必要であるため、賃借権の消滅後に建物を譲受けても、一○条の買取請求権は生じません。しかしこの場合、建物譲受人に四条の買取請求権の承継を認めうるかは別問題です。判例は、これを否定しているもののようですが多数の学説は、これを肯定しています。建物の譲受人は、その譲渡人たる賃借人が四条にもとづき賃貸人に対してもっている買取請求権を、建物に付随する財産権として当然に取得するとみることができるからです。ただ買取請求権の譲渡を認めると、賃貸人が賃措人に対して延滞賃料その他の債権をもつ場合に、建物の代金支払債務と相殺しうるかという問題が起りますが、賃借人が買取請求権を行使した場合には、賃貸人が相殺をもって対抗できるものである以上、買取請求権を行使せずにこれを譲渡した場合にも、このような抗弁は、将来買取請求権の行使によって発生すべき建物の代金支払請求権に潜在的に付着するものと考えられます。もっとも、債務不履行を原因とする解除によって借地権が消滅した場合に四条の買取請求権を否定する見解からすれば、この場合には買取請求権の譲渡を認める余地はありませんが、これを肯定する立場からすれば、借地権の消滅が、期間の満了によると債務不履行によるとにょって、区別すべき理由はないわけです。
買取請求権が成立するためには、建物譲受当時に賃借権が存在していればよく、買取請求をするときまで存続する必要はありません。したがって、賃賃人が無断譲渡または転貸を理由として解除しても、建物譲受人が買取請求権を行使する妨げとならないのはもちろんです。もしそうでなけれぱ、賃貸人は、建物の譲渡とともに賃借権の譲渡または転貸のあった場合に、直ちに敷地の賃貸借を解除することによって、買取義務をまぬがれることとなり、借地法一○条はまったく無意味な規定となるからです。ただ、第三者の建物取得後、買取請求前に、賃借人の賃料不払などの債務不履行によって賃貸借が解除されたときにも、第三者に買取請求権があるかについては、四条の買取請求権についてと同じく、学読はわかれていますが、判例はこれを否定しています。これは、債務不履行を原因とする解除によって借地権が消滅した場合には、四条の買取請求権の成立を否定している関係上、これとの権衡を保たしめようとしたものと思われます。つまり、賃借人の債務不履行による解除の場合にも建物譲受人に買取請求権を認めると、敷地の賃借人に、地上の建物を第三者に譲渡するという方法によって、自ら土地所有者に買取請求をしたのと同様の結果を収めるうることとなつて不当である、ということです。しかし、もともと債務不履行を原因とする賃貸借の解除の場合に、四条の買取請求権がないとすることが、すでにのべたように、問題なのであって、この場合に買取請求権を肯定する立場からすれば、第三者が建物を取得した後、賃借人の債務不履行により賃借権が消滅しても、第三者は買取請求権を失う道理がありません。

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