借地人の建物買取請求権

借地法は、建物の所有を目的とする地上権および賃借権を借地権という名称で統一し借地権を強化して借地人の保護をはかつています。地上権や土地の賃借権が消滅した場合に、土地所有者と地上権者または賃借人との関係を調整するために民法が認めている制度のうちには、地上権については土地所有者の地上物件買取請求権があり、賃借権については賃借人の有益費債還請求権があります。しかし、地上権消滅の場合の地上物件買取請求権は、土地所有者のために認められた権利であり、その行使は土地所有者の自由に委されているため、地上権者が他人の土地の上に建物築造の形で投下した資本を回収することには役立ちません。また、賃借人が有益費として償還の請求ができるのは、費用投下の結果が賃貸借契約の目的物の構成部分となつている場合にかぎられるため、土地と建物とがそれぞれ独立の不動産とされている日本の法制のもとでは、有益費償還請求の制度も、賃借人が他人の土地の上に建物築造の形で投下した資本の回収に役立つものではありません。もっとも、これらの場合に地上権者や賃借人は、建物その他の物件を収去することができますが、借地人が欲する投下資本の回収は、収去権を行使して建物を取毀した古材木としでではなく、土地に築造された建物としてです。のみならず、まだ命数のある建物の保護をはかることは、社会経済上の立場からも要求されるところです。借地法が、その四条およぴ一○条において、借地人や建物譲受人に建物買取請求権を与えたゆえんです。

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建物買取請求権が成立するためには、借地権の消滅したことと借地上に建物の存在することとの二つの要件が必要です。
借地権が期間満了後に更新されずに消滅した場合に買取請求権の生じることはもちろんですが、借地権の消滅が借地権者の債務不履行を原因とする解除によって生じた場合にも買取請求権があるかどうかは議論があります。これについては、旧四条の適用に関しておよそ三つの見解がわかれていました。第一は、更新請求権および買取請求権の双方を否定するもの、第二は、これとは逆にその双方を否定するもの、第三は、更新請求権を否定するが買取請求権を肯定するものです。大判大正一五年一○月一二日は、第一の見解をとり、契約更新請求権も建物買取請求権も否定しましたが、この態度は、四条の改正後も変っていません。判倒は、更新請求権がなければ買取請求権が成立しないもの、すなわち、前者の存在が後者の成立の前提要件をなすものと考えているようですが、両者の間にこのような必然的関連を認めなければならないかどうかは大いに疑問です。まず、文理上からみても、四条二項は、契約の更新なき場合に買取請求をなしうることを定めていますが、この場合に属するものとしては、一項の規定する借地権者の更新請求にかかわらず土地所有者の異議申立によって更新が阻止された場合だけでなく、借地権者に更新請求権がないために契約の更新がなされなかった場合をも含みうるのであり、買取請求権者の範囲は、更新請求権者の範囲より広いものであってよいことになります。次に、これらの制度が設けられた趣旨からみても、更新請求権は、借地権者の借地権の安定をはかろうとするものですが、買取請求権は、建物の社会経済上の価値にかんがみ、建物を存置させようとするものです。したがって、前者が否認されたからといって、後者も否認されねばならならないということにはならないはずです。借地権者の債務不履行を原因とする解除によつて借地権が消滅した場合に、借地権者の一方的意思表示によって前契約と同一の条件をもってする借地権を設定したものとみなされる、という効果の発生する契約更新請求権を認めることは、信義則に反するものとして許されるべきではありません。これに対して、社会経済上の立場から建物の保護をはかろうとする建物買取請求権は、その趣旨を徹底させるかぎり、地代不払などの債務不履行を原因として借地権が消滅した場合であっても、これを否認すべき理由はないと考えられます。
昭和三五年七月に発表された借地借家法改正要綱案では、義務違反による借地権消滅の請求が裁判所によって認客された場合についても、期間満了後における借地権消滅の請求が裁判所によって認容された場合と同様に、建物その他借地権者が土地に附属させた物の所有権は、土地所有者に帰属するものとしています。ただ、前の場合には、裁判所が相当と認めたときに、土地所有者の請求にもとづき、帰属物件の対価の支払につき相当の期限を許与しうるものとする点で、後の場合と区別しているにすぎません。建物保護という社会経済上の必要性の強いことをしめすものといえます。
借地権が消滅しても、借地権者がその土地の使用を継続している場合に、土地所有者が遅滞なく意義をのべないかぎり、借地契約は更新したものとみなされますが、正当の事由のある異議申立てによって、更新の効果が生じなかつた場合に、借地権者は建物買取請求権を持つかについては、規定はありませんが、これを肯定すべきものと考えてよいでしょう。契約更新請求権という形成権の一方的行使も、土地の使用継続という事実行為も、共に借地権者の行為であることに変りはなく、また、使用を継続していることは、然示の更新請求とも考えられるため、建物買取請求権制度の趣旨からみて、四条の場合との権衡上、六条の場合に買取請求権を否定する理由はないからです。
借地権の消滅前に建物が滅失した場合において、借地権者が残存期間を超えて存続すべき建物を新築したのに対し、土地所有者が遅滞なく異議をのべなければ、借地権は、建物滅失の日から起算して三○年もしくは二○年存続しますが、土地所有者の遅滞なき異議があるにもかかわらず、借地権者がこれを無視して新築をすれば、借地権は、当初に定まっていた本来の借地期間満了のときに消滅することになります。この際、四条の契約更新が生じない場合に、借地権者は建物の買取を請求しうるでしょうか。これについては、土地所有者の異議があるにもかかわらず新築をあえてするような借地権者に買取請求権がないのは、信義の原則に照らして当然だというような見解もありますが、これは以前に建物が存在していたことを忘れたものと評しうるため、通説は買取請求権を肯定しています。もっとも、建物の時価の算定については、新築建物を基準とする説と、旧建物の現存を仮定したものを基準とする説とにわかれていますが、後説が妥当であろうと思われます。借地権者が旧建物の跡に新築する建物は、借地権の残存期間よりも長く存続するのが普通ですが、残存期間の満了により借地権が消滅するものとして四条を適用すれば、更新を阻止された借地権者は、新築建物における居住や営業活動の場所を短期間で失うことになり、土地所有者は、借地権設定の当初に予期しなかった新築建物を時価で買取らねばならないことになります。そこで借地法七条は、このような場合の土地所有者と借地権者との利害を調整するために、土地所有者に新築に対する異議権を認め、異議をのべなければ、借地権の存続期間は当然に延長するものとして借地権者の利益をはかるとともに、異議をのべた場合には、異議を無視して新築をあえてした借地権者は、残存期間の満了の際に、新築にもとづく効果を主張しえないものとして土地所有者の利益をもはかつた、と考えられるからです。
建物買取請求権は形成権であり、買取請求と同時に特定の建物の売買契約が成立したのと同一の効果を生じます。したがつて、買取請求権の行使によって、土地所有者は、建物の買主として買取代金支払義務を負い、借地権者は、売主として建物を土地所有者に引渡す義務を負うことになりますが、履行期に別段の定めのないかぎり、建物の引渡と代金の支払との間には同時履行の法律関係が成立します。また、買取代金債権は、建物その他の地上物件と牽連性があるため、借地権者は、留置権を行使して、代金の支払があるまでその引渡を拒むこともできます。同時履行の抗弁権または留置権にもとづいて建物の引渡を拒絶した借地権者は、買取請求権行使後における敷地占有の違法性が阻却されるため、不法占有による損害賠償の義務を負うことはありませんが、そのために敷地の使用が無償であってよいということにはならないため、借地権者が建物に居住しまたはこれを賃貸している場合には、その間の地代相当額を不当利得として、土地所有者に返還しなけれぱならないことになります。

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