無記名定期の預金者の認定

無記名定期預金とは正式には特別定期預金と呼ばれていますが、これは終戦後の混乱期の産物です。すなわち、この制度は、預金者の氏名を秘匿し、預金利子に対し低率の源泉課税をするだけで、総合課税の対象にしないことによって、退蔵資金、いわゆるたんす預金を銀行預金に吸収し、インフレ抑止、貯蓄増強に役立てようという趣旨で始められたものです。
その仕組は、銀行は預金者の住所、氏名を届け出させず、印章だけを届けさせて無記名の定期預金証書を交付し、それに届出印章を押して提出した者に元利金を支払う、というものです。
このように、この制度は預金者心理にマッチし、銀行の預金増強には有利でしょうが、なにぶんにも変則的なものですから、いろいろ難点を含んでおります。
預金の払戻しを受けるには、預金証書と届出印、普通預金なら、預金通帳と届出印が必要なのが建前です。理論的には、これらは払戻請求者の権限を確認するための資料に過ぎないのですから、これらがなくとも本人に対する支払は有効なはずですが、本人の確認は一般にむずかしいので、証書(通帳)や届出印なしには払わないのが原則です。普通預金では、ごく例外的に通帳もしくは印章なしに払うこともありますが、これは、預金者本人(代理人)であることが確かで、しかも通帳や印章を揃えて持参するのでは間に合わぬという事情の認められる場合に、一定の内部手続のもとに行なわれるもので、しかも、欠訣した手続は速やかに補完させる扱いになっています。
このように、証書(通帳)および届出印は重要な機能を営むものですから、預金者が証書(通帳)や届出印を失った旨申し出たときは、銀行は申出の真実なことを確認し誤払いを防止するなどのため、それぞれの場合の具体的事情に応じて、慎重な処置を講ずることになっています。まして、無記名定期の場合は、最初から本人が誰かわからない建前であり、銀行としては頼るものは証書と印章だけなのですから、それがないとなると払戻しはよほど念を入れてやらないとすこぶる危険です。証書も印章も両方とも失ったという場合などなおさらです。そこで、預金者の立場で考えてみると、もし銀行に事故の届出をすれば、いろいろと調べ立てられ、せっかくの無記名式も記名式と同じ扱いに変えられてしまい、満期後も相当長期間支払を保留され、いざ支払というとぎにも厳重な保証人を立てさせられる、ということになります。
このような次第ですから、無記名定期の証書や届出印を他人に頼んでおいて、その預り人がそれらを失ってしまったというような場合は、本人は悔やむことになるでしょう。また、預かってくれた友人に対しても気の毒な思いをするでしょう。
ちなみに、手形や金融債のような有価証券を失ったときは、時間と手数はかかりますが、公示催告という手続で裁判所の除権判決をもらい、その証券を無効なものにしてもらって、証券なしに支払ってもらうことができるのですが、無記名定期は、無記名債権に酷似しているにもかかわらず、指名債権、権判者が特定の人だということにきまっている債権だとされていますので、このような方法はとれず、あくまで権判者は誰かを探索せねばならぬことになるのです。

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無記名定期では、銀行は預金者が誰だかを知らず、また誰だかを検索しないたてまえですから、預金者が誰であるかは銀行にわからない場合が多いでしょう。そこで、無記名定期の預金者が死亡した場合でも、銀行がそのことを知らないときは、証書と届出印の持参人に支払えば、銀行に過失でもないかぎり、正当な支払をしたことになります。ところが、相続人から預金者死亡の届出があったり、銀行がなんらかの事情で預金者が死亡した事実を知ったりすると、問題は厄介になります。銀行としては、相続人たちが預金証書も届出日も揃えて持参したとしても、これだけでは必ずしも信頼できないし、ましてこれらの一方か両方ともを欠いているときは、よほどよく調べた上でないと、支払などできません。銀行のやり方は場合によって違いますが、要するにあらゆる手段を尽くしてその預金がその死んだ人のものであったことを確認する努力をし、また相続人全員の氏名を明らかにする手段をとり、支払も慎重な手続のもとに行なうことになります。そこで、これを相続人たちの側からみますと、いろいろと問いただされ、面倒な資料を出さされ、満期がきてもかなりの期間支払をとめられ、支払のときは厳重 な保証人を立てさせられるなど、苦労せねばならぬことになるわけです。
要するに、無記名定期の預金者は、その証書や届出印のことまで家族によく教え、保管場所も示しておかないと、万一の場合に家族に難儀をかけることになります。なお、無記名定期の証書や届出印を友人などに預け、預り主がそのまま死亡すると、も し預り主の遺族が事情を知らぬ場合は、お互いに気まずい思いをすることになるかもしれません。
他人に無記名定期の預入手続を頼んだ場合も、遅滞なくその証書と届出印を返してもらっておけば、その他人がたまたま銀行から融資を受け、それが焦げついたとしても、銀行に預金を相殺されて当方が泣かねばならぬというようなことは、まずまずなさそうです。しかし、万一にも訴訟などのトラブルにまき込まれたくない人は、預入手続も自分ですることです。
証書と印章を預け放しにしておくことは危険です。ことに数年放置するときはなおさらです。人間はもともと弱いものですから、もし預り主が金に困り果てると、預かった預金を自分のもののように装って銀行に担保に入れるようなことも、起こらないとは限りません。この場合、もし預り主が借金を返せなくなると、結局当方は預金を失ってしまうことになります。また、預り主が税務署などの差押を受けると、当方が迷惑することになるおそれもあります。

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