預金払戻しの免責約款

私達が銀行から普通預金の払戻しを受けるには、普通預金通帳と払戻請求書を提出しなければなりません。払戻請求書は、銀行窓口備付けの用紙に金額を記載し、取引開始のときに銀行に届け出た印章を押して作ることも、御承知の通りです。銀行の方では、たくさんのお客の額をいちいち覚え込むことは事実上不可能なうえに、窓口の係員も時どき交代しますし、他方、預金者の方で使いの者をよこすこともありますから、通帳や印章によって払戻請求者の権限を確認することにしたわけです。
ところで、通帳と届出印を確認して払い出すのだから銀行はいつでも安心だとはいえません。これらが、盗難、紛失などによって預金者以外の者の手に渡り、不法の占有者によって機を失せず使用される、ということもありうるからです。これらの場合、銀行が十分注意しても、誤払いを絶対に防ぎうるという保証はありません。
そこで、銀行としては、通帳を確認し、払戻請求書の印影を届出印鑑と照合して、相違ないと認めて預金の払出しをした以上は、それが通帳や印章の盗用、印章の偽造などによる誤払いであっても、責任を負わない、ということにする必要があります。規定七条はこのような趣旨を定めたものです。規定七条の文言は通帳に触れていませんが、当然含まれると思われます。この場合、銀行としては、預金者側で通帳、届出印を確実に保管し、紛失、改印などの場合には直ちに銀行に届け出て、誤払いの発生を防いでくれることを期待するわけです。
以上によりますと、この規定七条の趣旨は、銀行がそのような手続をとって支払をする場合には、払戻請求者の権限を疑うに足りるような特段の事情のないかぎり、銀行はたとえ誤払いをした場合にも免責される、というにあると考えるべきです。したがって、銀行が、預金者からの盗難届その他の事情によって払戻請求者の無権限を知っていた場合や、銀行が銀行としての相応の注意能力を働かせれば、払戻請求者に果してその権限があるのかという疑いを当然持つべきであったという場合に、うっかり無権限者に支払ったのであれば、たとえ形式的にはこの約款の手続をふんだのであっても、銀行は免責されず、二度払いをしなければならないと解すべきです。つまり、規定七条は民法四七八条を定型化したような性格のものといってよいでしょう。

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通帳や届出印を失ったときの届出の手続はどうなっているのでしょうか。銀行が事故の届出を受けたときは、それが本人による真実のものであるかどうかを確認するための手段をつくし、口頭の申出に対してはあらためて書面を提出させ、必要とあれば保証人を立てさせます。特に改印届には軽率に応じないよう、また通帳の再発行は慎重に行なうよう、配慮されており、通帳再発行に伴う誤払防止措置も講じられます。
ちなみに、事故届に対しては受理証明は出されない扱いです。銀行の信用で運用される建前なわけですが、多少気になる点です。
総じて預金者は、通帳や印章の紛失、盗難を電話などで通知したら、銀行が適宜の方法で誤払いを防いでくれる、もちろん、銀行では、すでに誤払いがなされていないかどうかも直ちに確かめてくれるものと信頼しているでしょうし、また、これに対しては正式の事故届を出させるよう指導するのが銀行の実務慣行であるはずです。そこで、このような預金取引の実情にかんがみれば、略式の事故届がなされた後の手続の遵守については、預金者よりは銀行のほうがより強く要望されるべき立場にあるといえましょう。しかし、他面においては、正式の事故届を追完しない者に対しては銀行としてその履行を強要しえない場合もありうることが想像されます。
以上述べたところにより、すでにおわかりのことと思いますが、普通預金取引では、預金者が通帳や届出印の保管を確実にしているかぎり絶対に誤払いは起こりません。不幸にして、通帳や届出印を失ったときは、直ちに届け出れば、銀行は誤払いを防ぐよう善処してくれるはずですし、もし銀行が届出に無関心で誤払いしたときは、当方は再支払の請求ができます。
ただ、前にあげたように、預金者が盗難届をしたと認められたにもかかわらずその時期がはっきりしないという奇妙な事例もありますから、通帳や届出印の紛失、盗難の届出をしたときは、その受理証明をもらっておくのが安全です。これは、よく考えてみると銀行の利益にもなることなのですから、遠慮せずに要求するのがよいと思います。
なお、泥棒が被害者の届出前に定期預金の中途解約、払戻しなどを受けた場合について、その者が印章を押しなおしたほか、いろいろ不審な事実があったことを理由に、なんら権限確認の措置もとらずになされた銀行の預金払戻しは無効だとする下級審判例もあります。

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