別居を強いる転勤命令は拒否できないか

 A郎さんの勤めている○○工業は、本店が東京、支店が大阪にあるほか、四国の高松だとか、九州の熊本だとか、全国で五つの工場があります。A郎さんは、四年前に東京本社に入社し、以来営業部に籍をおいていました。縁あって、この四月に同じ職場のB子さんと結婚し共稼ぎです。ところが、九月一日付で、A郎さんだけ高松工場に転勤せよとの辞令がで、上司は単身赴任せよといっています。これを拒否することはできるでしょうか。

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 戦前の考え方では、男は外に出るもの、女は家にあるものとされていました。現在では、共稼ぎ夫婦も増えて、むしろ通常の習慣のようになっています。
 ところで、サラリーマンになれば、そして、特に各地に事業所を持っている企業に入社すれば、いわゆる転勤を命じられることも覚悟しなければならないでしょう。一時、週刊誌上だとか、サラリーマンの中で、札チョンなどという言葉が聞かれたことがありました。今さら申すまでもなく、北海道に単身赴任することを意味していました。転勤命令の結果、家族と離ればなれに暮らさざるを得なくなることも、往々にしてあるところです。転勤させる側からいうと、サラリーマンになった以上は、会社の都合によって転勤させられることは当然であるし、他の者もその立場は同じであるから、当然その命令には従うべきだということになります。一方、転勤する側からみれば、そうはいっても、家庭生活を懐されることもなかろうといいたくなります。
 このような事件について、裁判所の判決の中に「一般に使用者は労働契約においてその勤務場所、具体的な職種が特定されておらない限り、契約の趣旨、目的に反しない限りにおいて労働者が給付すべき労働の態様を決定する権限を有し、権限の行使としで業務上の理由に基づいて労働者に転勤を命ずるのですが、反面、転勤は労働者の生活関係に重大な影響を与えることがあることも事実です。
 そうであるから業務上の理由に基づく転勤命令であるからといって無制約に許されるものとは解すべきではなく、権限の行使はそれがもたらす結果のみならず、その行使の過程においても、労働関係上要請される信義則に照らし、当然に合理的な制約に服すべきものであり、その制約は具体的事案において業務上の理由の程度と労働者の生活関係への影響の程度とを比較衡量して判断されなければならない」と判示しているものがあります。
 そして、新婚間もなくの夫婦について、収入や距離から月平均二回くらいしか会うことができなくなるような転勤命令は、共稼ぎ夫婦についての情実防止その他会社側の事情を考慮しても、無効とみるべきものとしました。
 この判決に対する控訴審の判決も、転勤させる際に、会社側がこのような社会通念上容易に推察できる苦痛や不利益を与えたことを責め、不当労働行為として転勤命令を無効としました。

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